年収700万円以上は幸福度が上がらないという話、聞いたことはないだろうか。アメリカの教授による実験から広まった通説であるが、この記事で紐解いていこうと思う。

心理学者ダニエル・カーネマン教授らの実験概要

2010年に米国プリンストン大学のダニエル・カーネマン教授とアンガス・デートン教授らが、米科学アカデミーにて発表している実験である。2008年~2009年にかけてアメリカ人45万人超に対して、調査会社を通して電話調査を行い、そのデータから年収と幸福度の相関関係について分析したものだ。

年収750万ドル(当時)をボーダーラインとして、年収の上昇と人生の幸福度の上昇は相関しなくなるという結果が実験から得られた。

調査と結果の概要:High income improves evaluation of life but not emotional well-being(英文)

※あくまでアメリカ人での話なので、日本人の我々にそのまま適用していいのか?という疑問もあるが一旦それは置いておこう。

※国民性や文化以外にもドル円の相場、購買力平価など刻一刻と変化する数値的なものを加味する必要があるのでは?という疑問も一旦置いておこう。

要するに、それなりの収入を超えると幸福度の上昇カーブは比例しなくなるということ

文化・経済的な背景的な背景もあるので「年収の具体的なラインがいくらか?」ということはどうでもいい。

収入を上げても幸福度が上がらなくなるラインがあることを理解して人生を考えて生きることが重要なのである。

幸福度が上がらなくなる要因

生きていて欠乏や恐怖を感じないラインを超える

マズローの欲求段階説を例に考えるとわかりやすいかもしれない。

低次から並べると、人間には下記のような欲求がある。

マズローの5段階欲求

  1. 生理的欲求 (Physiological needs)
  2. 安全の欲求 (Safety needs)
  3. 社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging)
  4. 承認(尊重)の欲求 (Esteem)
  5. 自己実現の欲求 (Self-actualization)

上記でいうところの4番目までが”欠乏欲求“とされており、不安や緊張、時に恐怖を感じる根源である。

マズローも言っているように4つの欲求がすべて満たされたとしても、人は自分に適していることをしていない限りすぐに新しい不満が生じて落ち着かなくなってくる。

社会に対して自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して自分がなりえるものにならなければならないという欲求。

すべての行動の動機が、この「自己実現の欲求」に帰結されるようになるのだ。ある種の枯渇感。人生のフェーズが上がることによる贅沢なストレスだ。

この欲求を理解していれば、人生における中長期の明確な目標や社会からの期待される役割を刷新・理解し腹落ちすることで新しい人生を歩めるかもしれない。

属するコミュニティの複雑化・責任範囲の増加によるストレス

これは筆者の経験談であるが、年収が上がってマズローの欠乏欲求をクリアした後に、途端に生活全般におけるストレスが強くなったのを感じた。「自己実現の欲求による枯渇感」「年収に見合う仕事のストレス」という判断もできるが、もっと抽象的に捉えてみると、仕事だけでも下記のように言語化できた。

  • 属するコミュニティの複雑化
  • 責任範囲の増加

によるストレスである。年収が低い頃は概ね責任も限定的でストレスの根源が違っていた。

また、周囲に「さらに上に行くこと」をどうしても期待されている(と感じる)プレッシャーから、仕事以外の私生活における振る舞いも変化を促される。これもまた多大なストレスのループへ手招きする曲者だ。

このストレスを予め理解していれば、自分のコミュニティの整理を行ったり、高負荷な仕事の見極めを身に着けることによりストレス軽減できたはずだった。

上記を冷静に分析できた今では、「儲かるが高負荷で時間を奪われ、自らを消耗させる仕事」に安易に飛びつかずに昔よりも冷静な選球眼で、自分を保てることを第一に仕事や生き方を選ぶようになった。

調査には、収入が低いとヤバい。ということも書いてある

書くまでもないが、意訳するとこのようなことが書いてある。「お金で生活の満足度は買えるかもしれないが、幸福までは買えない。貧乏は不幸を悪化させ、人生に対する評価が低くなる。

We conclude that high income buys life satisfaction but not happiness, and that low income is associated both with low life evaluation and low emotional well-being.

High income improves evaluation of life but not emotional well-being(英文)

何をするにもカネが邪魔をする、そんな人生はゴメンだ。

お金を儲けてその先に何をするか?自分の存在意義・自己実現目標を見つけていこう

「ビッグになりたい」という若者からの相談を受けることがある。勢いがあって大変よろしいが、「ビッグ」の定義とは?

多くのそういった若者が「ビッグ」の定義を、「とりあえず年収1,000万円稼いでいる状態」と設定する共通項があることもおもしろい。

そのお金で、何をするの?と聞き返しても、これまでに自己実現の欲求の段階にある目標を聞けたことは1度もない。それが悪いのではなく、思考や精神の構造上仕方のない話なのである。

欠乏欲求にまみれた状態から抜け出したいという強い気持ちは、確かに人生において良いガソリンになる。私にも負の感情が強力に作用している時期があった。

しかし、そのガソリンが強力に作用するほど、欠乏欲求が満たされた後に空虚を感じ立ち止まってしまう人は多い。自分の存在意義や自己実現の欲求を満たせるような目標を見つけて、それに向かって生きていきたいものだ。自戒も込めて。


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